赤いポスト
25年以上昔の事。
一人の若い男性と知り合った。
彼は、極端に言葉数が少なく、目をあわそうとしないが礼儀正しかった。
気安く話しかけづらいものの、決して感じの悪い青年ではなかった。
20代半ばに思えた。
非常に珍しい苗字で、それをたまたま私が「読めた」ことがきっかけで会話するようになった。
ある日、彼がポストに手紙を投函するところに出くわした。
25年前。世の中はポケベル全盛期であり、誰もがスマホで会話やメールを交わす時代ではない
(今の若者はショルダーバッグのような携帯電話を知っているだろうか)
とはいえ、彼のような若者が大事そうに、分厚い封書をポストに入れる姿は、古風というか何となく珍しい気がして
「ラブレター?」と笑いながら聞いた。
それには答えず、彼は話しだした。
「自分。田舎に妻がいるんです。子どもも」
「まあ。そうだったの」
ポストから同じ場所に向かう道すがら話をしてくれた。
初めて付き合った女性と結婚すると昔からきめていたこと。
今は事情があって会えないこと。
彼女のお父さんがいい人だから心配ない事。
子どもに会いたいこと。
・・・・・
それからも、相変わらず彼は無口で静かな青年だったが目が合うとにっこりしてくれた。
今頃どこで何をしているのかと、昨日のポストの写真を見ながら思い出していた。
人には誰にでも訳があり、事情があるのだけど
きっと、良い家庭を作って幸せに暮らしていると思いたい。
珍しい苗字と赤いポストとまるで己を律しながら生きているような彼。
忘れられない記憶である。
サイドバーのバックナンバーをクリックすると全記事がご覧になれます。
2009/9~2013/8 の記事はコチラです⇒http://nurebumi.cocolog-nifty.
最近のコメント