映画・山の音(やまのおと)
1954年/東宝/白黒 監督・成瀬三喜男 原作・川端康成
敗戦から9年ようやく日本が落ち着きを取り戻したころでしょうか。
しかし、心に屈折を抱えた復員兵である主人公の夫や戦争未亡人。
登場人物には戦争の残した傷あとが色濃く残っています。
優しく美しい妻・菊子(原節子)のどこに不満があるのでしょう。夫・修一(上原謙)は外に女をこしらえています。
いいですねえ・・「女をこしらえる」って表現。フェミニストが怒鳴り込んできそうです。
彼は父親(山村聡)が重役をしている会社に勤めています。
(電信柱に丸の内と書いてありました)
親夫婦(母・長岡輝子)との4人暮らし。彼らにはまだ子どもがいません。
「鎌倉」というところは、このあたりで言うと「御影」?「岡本」?閑静なたたずまいの中に住まいがあります。
昔、夏目雅子さんが結婚された頃、自転車でひょいと出てきたところをインタヴューされておられる映像を何度か見たことがあります。
まさに、そこなのです。
原節子さんも、植え込みのある垣根に沿って自転車でお買い物です。
「若妻」の演出なんですね。
(画像・wikkipedhia)
妻はその気立ての良さから舅・姑にとても大切にされています。
そりゃあそうだわ。ずーっとクルクル働いてはるもん。
姑さんが台所に立ったり、お茶を淹れたり、洗濯物を干してる場面なんかありません。
あ~~あ。あんな姑になりたい。
特に舅は心が通い合わない夫に代わり、菊子をいたわり理解し支えになっています。
でも、息子に「おまえ、アカンやないか!嫁さん泣かしたら・・」とは言わないのね。
当時はまだまだ「外に女をこしらえる」ことを容認するというか「仕方ないなァ」くらいの考えなのね。父子で男同士の会話がビミョウです。
浮気は男の甲斐性って言ったそうですね。
それは甲斐性のある男に使うセリフ。
甲斐性とは経済力の事です。
そんな男が少なくなったので(もちろん女性の地位の向上もあるけれど)
婚外恋愛を男女平等の「不倫」と言うようになったのかしらね。
もう一軒家を持たせて・・みたいな時代は遠くなりにけり。
この分野、不得意でよくわかりません。うぷ。
ところが、さすが戦後の映画です。
修一さんの「女」(角梨枝子)は働く女性。経済的自立を果たしています。
それどころか、身ごもった赤ん坊を「彼の子ではない。自分一人で育てます」と言い切ります。
切ないですねえ・・彼女は戦争未亡人なのです。
嫁・菊子の為に心を砕いていた義父ですが、菊子が夫との関係に悩み堕胎したことを知り息子と別れさせてやろうと決意するのでした。
義母が自分の夫に「貴方が可愛がりなさるから菊子は遠慮してやきもちも焼けやしない。」というセリフが印象的です。
な~んかね。耐えて忍んで辛い辛い忍従の日々。
原節子さんのマゾヒスティックな美しさが際立つわ。
さすが川端センセ。
(何か可笑しいですか。ワタクシ)
愛人である戦争未亡人は同じ境遇の友人(丹阿弥谷津子)と一緒に暮らしています。
おたまね、小さい頃、幼稚園に行くよりもっと小さい頃、近所の大工さんの二階に間借りしていたおばさん達に可愛がってもらった記憶があります。
一人を「毛糸の先生」と呼んでいました。もう一人はまだ若い人。
この方たちは戦争未亡人だって聞いていました。
そんな人たちが肩寄せて日本のあちこちで生きておられたのかしらね。
毛糸の先生にもらった白い毛糸のクマさんは掘りごたつの中で焦がしてしまいました。
家に帰って、まさかまさか。でもひょっとしたらと探したら、ありましたよ。「原作」
お嫁に行くとき、母が持たせてくれた「文学全集」
なんか、流行ってたわね。文学全集売り歩く訪問販売。
死ぬまでに読み切れまへんがな。
戦後の川端文学の最高峰だそうです。きっと映画と全然チャうんでしょうな。読んでみますわ。
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コメント
本を読みましたが記憶がイマイチ、おたまさんの解説で少し戻ってきましたが、今ならもっと色々なことが感じられるかも。
この頃の家族・夫婦・生活が実感できる最後の世代ですしね。
今年のお正月に川端邸隣の甘縄神社に行きました。
低い山の中腹にあって、この「山の音」だったのだと思い出しました。
鎌倉には狭い小道があちこちにあって、夏目さんがひょっこり現れそうな気がしましたよ。
投稿: 熱烈 | 2016年6月 4日 (土) 21時10分
熱烈さんへ
「山の音」読み始めました。
老いに向かう男性の独白なのですね。作者自身の投影ですかね。
細かい心理が丁寧に書き込まれていて、好きか嫌いは別にして・・映画をみたあとで原作を読むというのは結構面白いなあ、と新たな発見です。
「鎌倉」というところに行ってみたいですわ。自転車が乗れるうちに・・。気分は雅子さんか節子さんになって!
投稿: おたま | 2016年6月 5日 (日) 10時26分