五月五日の思い出
花が咲き、名前を知らない小鳥たちがさえずる。
こんなに明るく美しい季節のなかにいるのに
突き抜ける空の青さに寂しさを感じるのはなぜだろう。
8年前のゴールデンウィーク
大阪大学医学部付属病院に入院していた。
手の指にできた腫瘍を摘出してもらうためである。
おそらく良性であると思われるものの、珍しいタイプであったらしく、市民病院から阪大へ廻され執刀医は国内で5本の指に入ると言われる(指専門の)先生であった。
夫が亡くなって一年に満たない頃であり一人暮らしをしていた。
手術の立ち合いは近所の友人夫婦がしてくれた。
阪大病院の14階にはリーガロイヤルホテル直営のスカイレストランがあり万博記念公園が一望できた。
全身麻酔による手術のあと、どういう都合だったのだろう
整形外科ではなく小児病棟へ移された。
ここからの眺めも素晴らしかったので8階か9階ではなかったかと思う。
さほど深刻ではない入院手術でもあり、事前の宣伝(?)がゆきわたっていたので12日間の入院期間中は、入れ代わり立ち代わり誰かがお見舞いに来てくれた。
「病室の四人四つの春灯」 おたま
(ビョウシツノヨニンヨッツノハルトモシ)
入り口に近い私のベッドの前は常にカーテンが引かれ結局顔を見ることは無かったがクローン病の18歳の女の子。彼女は小児科のころから入退院を繰り返していたそうだ。
同じような年頃のご主人がいた。
彼女の病名を聞いてから我々(他の三人は整形外科にかかっている成人女性)は食事の時に食器が触れたりしないよう、音を立てないよう注意を払った。
しかし、食事時の匂いは防ぎようがない。
事情を知らないボランティアスタッフさんが「今日は子どもの日だから柏餅がついてますよ」などと明るい声で食事を運んでくる。
そのたびに彼女は泣き、若い連れ合いは「飴玉」を渡していた。
その柏餅が出た子どもの日
万博記念公園で花火が打ち上げられることになっていた。
恒例行事のようだった。
この日に限っては子ども達は消灯時間をずらしてもらい
大きなガラス窓のあるフロアに集まって来た。
車椅子の子。ストレッチャーの子。ナースに抱っこしてもらっている子。
フロアの電気が落とされ、それだけで子どもたちは期待に胸を膨らませているようだった。
「わ~~きれい。きれいね。・・・」
この声を、私は一生忘れることは無いと思う。
天使のような女の子の声だった。
お昼間に出会うといつも手を振ってくれる子だっただろうか。
出会うといっても彼女はガラスケースのようなプレイルームの中だったけど。
建前上では家族の付き添いは「不要」ではあるが、現実の小児看護態勢では「手薄」となる部分を主に母親の付き添いに依存せざるを得ないの現状ではないだろうか。
障がいや疾患のある子ども達である。まして乳幼児なら濃密な付き添いが必要となる。
長期に渡る入院で疲弊し切っているお母さんたちを何人も見かけた。
小児病棟に入院しなければ知ることのなかった世界だった。
「回診の医師足早に汗し来る」 おたま
(カイシンノイシアシバヤニアセシクル)
我々が花火を見た一年後。2007年5月5日
万博公園エキスポランドにて悲劇的な事故が発生する。
2009年2月。エキスポランド閉鎖。
思えばあれが最後の花火だったということだ。
・・・・・
また五月五日がやってくる。
再発率が高いと言われたが今のところ認められない。
執刀医はその後別の国立機構に移られ、再発すればそちらへ行くように言われている。
「嘘ひとつ言ひ通しけり蛇苺」 おたま
(ウソヒトツイイトオシケリヘビイチゴ)
;2009/9~2013/8 の記事はコチラです⇒http://nurebumi.cocolog-nifty.com/
| 固定リンク
「俳句・吟行」カテゴリの記事
- 六甲山頂レストランにて(2022.07.16)
- 六甲山上へ(2022.07.15)
- 花言葉は「うれしい知らせ」(2022.06.02)
- みやびな梅林めぐり(2022.03.09)
- 俳句2021まとめ(2022.01.06)
コメント
ご本復お喜び申し上げます。8年たったのなら再発の可能性もかなり低くなっていることでしょう。
…小学校時代、クラスメートが重い病で亡くなりました。元気なときはとてもやんちゃな少年だったのに。
『海街diary』というマンガで、看護婦をしている主人公(のひとり)が、
「難病のこどもは例外なくいい子でしっかりしています」「厳しい闘病が彼らが子どもでいることを許さないからです」「子どもであることを奪われた子どもほど悲しいものはありません」といっていました。万博そばの病院の子どもたちに、花火に代わる楽しみがあるとよいのですが・・・・。
投稿: ヴェルデ | 2014年4月30日 (水) 23時48分
しみじみと読み終えました。
「嘘ひとつ言ひ通しけり蛇苺」
意味深な句ですね。
投稿: まさやん | 2014年5月 1日 (木) 07時59分
おたまさん、
ちょっとダケお久しぶりです。影の読者でいようか、と思った瞬間・・・こんな記事が上がって!
「病」のことを こんなに素晴らしい思い出の話しにできる
なんて・・・
甲賀の忍者、影にも成れぬ! ”やっぱり狸です”
投稿: 風 | 2014年5月 1日 (木) 11時23分
本当に病気がこの世になければいいのにと思います・・・
数十年前、市外のマラソン大会を見に行った時のこと、タクシーから少年と母親がおりてきました。ドライバーさんが車いすを降ろしていました。その少年の顔色は悪く、一目で重い病気と分かりました。
元気いっぱいのランナーが走る姿を親子はどんな思いで応援していたのでしょうか?
人生100まで生きるとしたら、88(ハッハ)64・49(シクシク)36で合計100だとか。。。
でも、シクシクの方が多い人生もあるんですよね。
おたまさんのぶろぐで、いつも、88を分けてもらっています。
息子さんの仕事をして云々、おたまさんは、「いい、仕事してますよ~」
私は、うつうつした気持ちが、いつも明るくなります♪
投稿: ペコちゃん | 2014年5月 1日 (木) 11時24分
指の腫瘍で全身麻酔って。そんな凄い事が有ったんですね。
”言い通した嘘”って何方への嘘だったのでしょうか?
先日の花の写真使わせて頂いて宜しいでしょうか?(って、もう貼り付けてしまったのですが。。)
投稿: アンヘラ | 2014年5月 1日 (木) 11時25分
おたまさんの白魚のような指にメスが入ったのですか?
治癒されて良かったわ。指があってこそのブログupですもの。
うばゆりの指治療の思い出は、
ゴキブリをたたき損ねて転倒し薬指を骨折したことです。今も指は曲がっていますわ。
投稿: うばゆり | 2014年5月 1日 (木) 21時54分
言い通した嘘と、苺に蛇が冠された蛇苺が只ならぬものを感じさせます。妹に隠していたことがある私は、嘘はつかなかったけれど知っていたことをつげなかった。これも嘘の一つです・・・。
おたまさんの俳句楽しみです。
投稿: おけい | 2014年5月 2日 (金) 00時10分
>「難病のこどもは例外なくいい子でしっかりしています」「厳しい闘病が彼らが子どもでいることを許さないからです」
正にその通りだと思います。
あの年齢で出来上がっている。美しい魂。
辛い話です。
嘘つきのまさやんさんには分っていただけると思います。
嘘つきおたま
え~~。なぜに「影」なのですか?
ぶらぶら揺れる気配で察知しまっせ。
「隠れファンです」と言って下さった方がありますが「なんで隠れるの?」って言っちゃいました。
かかって来んかい!お待ちしています
64:36ですか。いい線ですね^^
影がないと光がわからないですからね。
出来たら早めに36の方は消化しておきたいものです。
人物(って殆ど無いけど)以外はご自由に使っていただいていいですよ。
でも、無茶苦茶写真が下手だから・・
全身麻酔。すっごくハンサムな麻酔科の先生が手を握って下さる中・・夢の世界へ・・
阪大病院。エエとこでっせ。
さすが・・アクティブなうばゆりさん。
そんな名誉の負傷をなさっていたとは・・
で、きゃつは叩き潰せなかったのですね。
憎いですわ。
基本、「嘘」ってどうしようもないなあ・・と思っています。
「黙っていること」は「嘘」の範疇には無いと思いますよ。
墓まで持って行くつもりが「八百」ほどあるのですが、これは保身なのか嘘なのか言わずもがななのか・・
ま。深く考えずにお口にチャックです
投稿: おたま | 2014年5月 2日 (金) 10時45分